合気道の「入り身投げ」にある大きな誤解

「入り身投げ」という技があります。

合気道を始めてしばらくすると、誰もが覚える基本技のひとつです。

しかしこの「入り身投げ」、一つの技のやり方だと誤解されています。

入り身投げは、あくまで、入り身という動作をした後に投げるという、二つの意味合いから成り立っている技です。

つまり「入り身+投げ」であって、あの形自体が「入り身投げ」ではありません。

この誤解を放置すると、技の動作ばかり追いかけてしまい、本質的な身体操作や意識の在り方にたどり着けません。

間違った「入り身」の特徴とは?

間違った入り身にはいくつか共通点があります。

  • 体軸が通っていない
  • 重心移動が日常の歩行と変わらない
  • 居着いた状態で、ただ間合いを詰めるだけ
  • 相手と意識の衝突がある

要するに、「ただ前に出ているだけ」であり、相手との関係性を無視した一方的な動きになってしまっているのです。

よくありがちなのが、相手の攻撃を避けることだけを、相手の攻撃を避けようと、のけぞるように、前に出る動作。

重心が後ろに崩れているので、崩すどころか自分が崩れてしまっています。

これでは自分が常に後手に回り、崩すこともできません。

これは相手の攻撃しようとする気配と自分が入り身で入る気配がぶつかっているからです。

この、気配を入り身で消してはいるのが入り身です。

本当の「入り身」は相手と意識レベルでぶつからず、に相手の間合いに入る術です。

本来の入り身とは、相手の先を取る動きです。

見た目にはただ前に出ているように見えるかもしれません。

しかし、その動きや状態は

  • 体軸などの武術的な体使い
  • 浮き身が掛かった
  • 相手との衝突しない意識の在り方

が込められています。

つまり、「入り身」は足さばきや形ではなく、“状態”の話なのです。

なぜ反応できないのか?気配と錯覚の原理

「入り身がうまい人に技をかけられると、なぜか反応できない」

そんな不思議な体験をしたことがあります。

目には見えているのに、一瞬反応が遅れてしまい体が動かない。

避ける前に、すでに懐に入られている。

これは、人間が予測や気配をもとに反射的に反応している生き物だからです。

肩が動けば腕が出る、視線が動けば身体が来る。

こうした予測が働かない動きをされると、人は反応できないのです。

だから、入り身が上手い人は、本当に気配を消して動いているのです。

相手の脳が情報を処理しきれず、錯覚に陥ってしまうのです。

入り身とは、本来もっと繊細で、相手の感覚にすっと入り込むような動きです。

本物の入り身が起きたときに起こる現象

本当に入り身ができていると、相手には異変が起こります。

  • 触れてもいないのに腰が引ける
  • 「来る!」と察知した瞬間にもう間合いが詰められている
  • 相手がおよび腰になる
  • 見えているのに、体がついてこない

つまり、こちらが何もしていないように見えるのに、相手が勝手に崩れていくような現象が起こるのです。

こうなると、技が「やらせ」に見えてしまうのも無理はありません。

でもそれは、気配も起りもぶつかりもない、真の入り身だからこそ、相手が無意識に崩れてしまうというだけの話なのです。

入り身とは、起り(気配)を消して入ることです。

※起り(おこり)とは、何かしようとしたときに無意識に生まれる気配のことです。

  • 呼吸の変化
  • 重心移動
  • 視線の強さ
  • 筋肉の張り
  • 微かな予備動作

こうした動く前兆を相手に感じさせてしまうと、相手は反射的に反応してしまいます。

だからこそ、入り身とは「起りを消した状態で相手の懐に入ること」。

視覚的には見えていても、起りを感じないから反応できないのです。

これが、入り身の本質的な操作であり、合気の要諦でもあります。

真の入り身とは

たとえば、街中で人とすれ違うとき、お互いが譲り合おうとして逆にタイミングが合わず、ぶつかりそうになる瞬間があります。

あのとき、体は触れていないのに、ふっと“たじろぐ”ような反射的な動きが出ますよね。

あれは、人が「気配」や「動きの予兆」を無意識に感じ取っているからです。

入り身とは、そのたじろぐ感覚すら起こさせずに、自然に相手の懐に入り込む動きなのです。

つまり、見えていても、感じさせずに入る。

それが本当の「入り身」の感覚であり、単なる移動や、足さばきではないということです。

技の瞬間だけではなく、すべてに「入り身」がある

入り身は技の一部、と思われがちですが、実際にはすべての動作の中に入り身があるべきです。

技の前に

打たれた瞬間に

掴まれたときに

立ち上がる動作の中に

道を歩くその一歩にも

起りを消し、気配を立てず、相手とぶつからずに動く。

この感覚を持ち続けることが、合気道の本質につながります。

お勧めの入り身の稽古法

  1. いきなり動くのは流石に難しいので、まずはその場で足踏みや足の入れ替えなどの動作をした時に、居着かないことを意識してみると良いです。
  2. 居着かないようになると、新しい感覚が生まれてくるので、その感覚を確かなものにしていくと、自分の体の中で衝突が消えるのが分かるはずです
  3. そうすると、その感覚は相手にも伝わるので、結果として、相手とぶつからずに入ることができます。

ちなみに、今の私の課題は、入り身がまだ納得いくまでできないので、入り身で自由自在に動けるようになることです。汗