合気道で最初に気づくべき最大の勘違い
合気道は「対人」で成り立つ武道
合気道をやっていて、本当に一番の勘違いというか、最初に気が付いた方がいいと思うことがあります。
大前提として、合気道は対人、つまり相手がいて成り立つものですよね。だからこそ、そこを根底から考えた方がいいなと思ったのです。
日常には存在しない「人を崩す」動作
なぜなら、普段の日常動作の中で、人を崩すなんてことはしていないからです。
合気道では、構えて、相手と向かい合い、間合いがあり、接触があって、崩して、技に入るという流れがあります。
ところが日常生活で行っているのは、動かないものを動かす動作です。
例えばドアなら開けたり閉めたりする、荷物や段ボールなら引っ越しのときに持ち上げて運ぶ、といったことです。
これは「止まっていて安定している物体を移動させる」という動作です。
合気道でいうならば、それは投げる段階の話に近いのです。
「人を崩す」体使いを学ぶ必要性
ここで言いたいのは、「生きている人間のバランスを崩す」という運動を、私たちは日常生活では全くしていないということです。
ここに大きな間違いがあるのです。
だからこそ、まず最初に気が付かなければならないのです。
つまり、物を持ち上げたり動かしたりする動作は、すでに日常で十分に行っているわけです。
これは要するに「技の形」であり、そこはもう身についているともいえます。
ところが、人間のバランスを崩すということは、普段していないため、全く学んでいないのです。
ここを新しく学ぶ必要があります。
物を動かす力と人を崩す力は違う
物を動かす力の使い方と、人間のバランスを崩す体の使い方は違います。
私はこの違いに気が付いていませんでした。
ここに気が付くことによって、今までの日常的な「物を動かす体の使い方」は一旦やめて、「人を崩す体の使い方」を新たに学ぶ必要があるのです。
しかし、ずっと物を動かす体の使い方しかしてこなかったために、人を崩す体の使い方を身につけることができず、同じ間違いを繰り返してしまうのです。
身体操作が生む「崩し」
では、人を崩す体の使い方とは何なのか。それが「身体操作」という分野に出てきます。
具体的には、浮き、浮き身、抜き、螺旋、居着かない体、炎山の目付、遠山の目付、そして意識の使い方といったものです。
これらが必要になってきます。
そしてそれらを総合して表現するものが、「合気」や「柔ら」、あるいは「腰回し」といった言葉に集約されているのです。
技よりも先に学ぶべき「崩し」
つまり、まずやらなければならないのは、意識の段階で「物を持ち上げたり動かしたりする」ことの前に、それを技で言うなら「崩し」、すなわち「相手のバランスを崩す体の使い方」を学ばなければならないということです。
そのために合気道はとても良い稽古法だと思います。
これが、私が合気道を20年以上続けてきてようやく気が付いた、最大の盲点でした。
崩しを理解することで変わる稽古意識
物を動かす癖を取ることから始まる
では、この間違いに気が付くとどうなるかというと、「物を動かす体の癖」を取っていくことになります。
そして、「人を崩す体の使い方」を新たに学んでいく必要があるのです。
相手を「不安定にする」体使い
例えば、ダンボールを掴んで持ち上げる動作を考えてみます。
これは重さや抵抗があるので、重力に抗ったり、自分の体で支えたりする必要があります。
しかし、人を崩す場合には、相手を単に持ち上げようとしたり、動かそうとしても必ず抵抗されてしまいます。
そこで必要なのは、「相手を不安定な状態にするための体の使い方」なのです。
稽古の意識が変わる瞬間
では、相手が不安定になる状態を作り出すにはどうしたらいいか。こういう発想に派生させていくと、稽古に対する意識が大きく変わっていきます。
安定と不安定の関係
自分が安定していることの重要性
不安定にさせたいのであれば、自分自身がどういう状態でなければならないかを考える必要があります。
もし自分も同じように不安定になってしまったら、不安定同士でおかしなことになってしまいます。
そうならないためには、自分は常に安定していなければなりません。
安定していれば、不安定な相手に対しては強い立場を維持でき、耐えられる状態を確保できます。
大きな岩の比喩
ここでイメージできるのが「大きな岩」です。とても大きくて、今にも崩れそうな不安定な岩があったとします。
そのとき、安定した状態にある人間が横からちょんと押すだけで、その岩は大きく動き出す可能性があります。
場合によっては、何トンもある自分の体の何十倍もの岩を、崖下に突き落とせるかもしれません。
これはつまり、「相手が不安定な状態だからこそ、自分が安定して押せば、大きな力を出さなくても崩せる」ということです。
この発想こそが、合気道において「力のない人でも大きな体の人を崩せる」ことにつながっていくのです。
真の安定を作るために必要なこと
不安定を作るには「体の中」で調整する
先ほどの「大きな岩を崖に押して落とす」という例え話についてですが、あれはすでに大きな岩が不安定な状態で傾いていて、不安定さが作られているからこそ可能なのです。
では、人間が自分より大きな相手を倒すにはどうしたらいいのか。
それは「相手を不安定な状態にすること」が必要です。不安定な状態を作り出すからこそ、楽に技がかけられて、相手を制することができるのです。
では、どうやって相手を不安定にするのか。答えは「自分が相手よりも安定した状態を作ること」です。
では安定した状態とは何かというと、姿勢が崩れていたり、上手に立てていないような状態ではなく、より安定性が高まった身体の在り方です。
意識と体の質を変える
ではどこでそれを作るのか。それは「体の中」です。手でバランスを取るわけにもいかないし、足でバランスを取るわけにもいきません。
だからこそ、意識によって重心を変えたり、体の質そのものを変えていく必要があるのです。
そうなると、手先の使い方や手の角度、あるいは立ち位置といったものは二の次になります。
最も重要になるのは「姿勢」「意識の使い方」「体の使い方」なのです。
技の形に固執する危険性
ここに気づけない人は、いつまでも手先の動きや形の見た目ばかりにこだわってしまいます。
そして技の形にばかりこだわり、堂々巡りを繰り返して絶対に成長できません。
成長できたとしても、せいぜい見た目がきれいになる程度で、そこからの伸びしろはなくなり、必ず頭打ちになります。
結果として「形はきれいだけれど、少し抵抗されただけで技がかからない」という状態に陥ってしまいます。
そういう人は自分より弱い相手には通用しますが、結局はスピードやタイミング、フィジカルに頼った“スポーツ的な技”しかできないのです。
そこを抜け出すためには、やはり「自分の体の質を変えていく稽古」をしていく必要があります。
打撃と合気道に共通する本質
空手の「据物にして打つ」に学ぶ
合気道で成長したいと思ったら、今一度そういう視点に立ち返る必要があると思います。
空手にも「据物にして打つ」という言葉があったと思います。
おそらくこの「据物」というのは、動かない状態とか、居着いたりした相手、つまり不安定な状態にした相手に打つということではないでしょうか。
がっしり構えている相手にパンチを打っても効きません。
やはり、不安定な状態とか隙がある状態、つまりパンチが効く状態を作る必要があるのだと思います。
打撃にも崩しの組み立てがある
ですから、打撃も本質的には同じなのではないかと感じています。
だんだんと少しずつ削っていき、相手のバランスが崩れていったり、相手の隙が見えてきたところに的確にパンチを当てる。
そうすることで初めて効くのだと思います。
もちろん、偶然タイミングが噛み合って、たまたま良いパンチが入ることもあります。
しかし、それだけではなく、きちんと組み立てていくことで、理にかなった勝ち方、計画性を持って相手に勝つことができるのではないかと思うのです。
結論:合気道の最大の盲点と近道
結局のところ、最初の話に戻ります。
つまり、日常で行っているような「物を動かす体使い」をそのままやるのではなく、「相手のバランスが自然と崩れるような体使い」をこちらがしていく必要があります。
これを身につけていく稽古こそが、合気道における最大の盲点であり、そして一番の近道なのではないかと私は思います。